「マイナス支援」の成功例

ラファミド八王子の世話人、谷垣です。現在4年目で、アパート型の5棟と7棟で6名の利用者様を担当しています。

グループホームでは、問題の大きい利用者様への支援が優先されがちですが、今回は、安定して見える利用者様が実は抱えていた不安や問題を明確にし、1つずつ削っていく「マイナス支援」の成功例を紹介します。

今回の事例は7棟のS様、55歳です。48歳の頃に発達障害と自閉症スペクトラム障害の診断を受け、2年前にユニット型の3・4棟から7棟に移りました。

日中は就労継続支援B型事業所「エスプリ」に通所されていて、月ごとの通所状況にばらつきがありましたが、作業には真面目に取り組み、特に問題行動は見られませんでした。

 

アセスメントの実施と「沈黙の支援」

2023年10月、担当世話人が変わった際にアセスメントを実施しました。

最初に感じたのは「レスポンス(返答)に時間がかかる」ということ。自己主張が苦手で、不安が募ると考え込んでしまうタイプだと改めて分かりました。

そこで、自分の思いを話せる十分な時間を確保し、メモ用紙を渡して不安を書き出してもらう方法を取りました。

2時間ほどかかって、S様の「借金問題」「通所の不安」「左足首の痛み」という3つの課題が明らかになり、さらにそれらに優先順位をつけてもらって、1つずつ解決していくことになりました。

ひたすら待つ間、かつて教わった「沈黙は最大の支援だよ」という言葉を改めて意識させられました。

 

3つの課題への取り組み

  1. 借金問題の解決

    まず、一番不安だという借金問題に取り組みました。
    借金関連の書類が多数届いていましたが、どうしていいか分からなかったようです。
    まず法テラスへ連絡し、法律相談所へ行くよう指示されました。

    S様は「話すのが苦手」「新しい環境が苦手」で、法テラスへの電話や、法律事務所への相談は一人でできるか聞くと、同行を希望されました。
    法律事務所へは3回の内2回同行し、2023年11月に借金問題は目途が立ち、2024年3月に解決しました。

  2. 左足首の手術

    次の問題は左足首の痛みです。S様は以前から足を引き摺っていて、通院もしていましたが湿布をもらうだけで、深く相談できていなかったようです。
    通院に同行し、ご本人の話に補足して説明し、手術の希望を伝えました。
    先生は「そうだったんですか?!」と驚いていましたが、手術は簡単なものだそうで、2024年1月に手術が無事終了しました。

  3. エスプリ通所の見直し

    最後に、実は「精神的に負担が大きい」と感じていたという通所の問題です。
    まずは「職員と話したい」という希望で、ご本人と谷垣、エスプリの担当支援員、サービス管理責任者で2024年3月にカンファレンスを行いました。

    「パン屋の作業は忙しくて急かされて、周りの利用者からの視線も気になる」といった気持ちを正直に話せ、エスプリ側もS様の特性に合わせた作業の提案をしてくれましたが、「気持ちはありがたいが、他の作業所を見てみたい」という結果でした。

    その後、4月にハローワークに同行し、ご本人一人だと伝えられない部分を補足説明しました。
    B型に通えていないので一般就労は厳しいと言われ、他のB型事業所を探すことになりました。
    「黙々とした作業が合っていると思う」という希望を聞き、5月中旬に「HELLOS」に体験通所し、5月下旬から正式に通所が決まりました。現在は週3日通所を継続しています。

今回の支援での「気づき」と「成功ポイント」

これらの問題を、約半年かけて順番に解決することで、S様の不安を少しずつ取り除くことができました。

今後は、この状況を維持しつつ、最終目標である「一般アパートへの転居」に向けて支援を続けていく予定です。

正直、今回出てきた問題は、債権のハガキ、足の痛み、通所の不安定などは知ってはいたものの、S様にとって「そこまで不安になっていたとは」と驚かされる、想定内のようで想定外のものばかりでした。

《今回の成功ポイント》

    • 時間を掛けて、自分自身で考えを書き出し、優先順位をつけてもらうことができた
    • 複数の問題を同時にではなく、1度に1つずつ順番に取り組むことで、混乱せず解決できた
    • 何度も口を出しそうになるのを、ぐっとこらえて「待つ支援」「聞く支援」をしたことで、ご本人の気持ちを引き出せた
    • 病院や法律相談所など、時間が限られていて、緊張して話せない場では、同行・補足説明の支援で本人の気持ちを伝えられた

    現在担当する他の5名の利用者様は、部屋が汚い、高齢など、目立つ問題も多く、自分から話をしてくる人が多かったこともあり、S様は一番後回しになってしまいがちでしたが、担当する6名を平均的に支援しないといけないんだなと、改めて思わされました。

    今回の気づきを活かして、ご本人主体の支援を続けていきたいと思います。

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